Interview

INTERVIEW _ Laura Bilde and Linnea Blæhr

MAR. 22, 2024

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リニューアルした Oshima Pros のウェブサイトの JOURNAL では、カーペットやインテリアデザイン界のキーパーソンへのインタビューを掲載していきます。第一弾として、都内で開催された Ege Carpets の新作発表会「 SHE A TRIBUTE TO HER 」のためにコペンハーゲンから来日した二人のデザイナー、ローラ・ビルデとリネア・ブレールが登場。1930年台の女性アーティストらへのリスペクトから発想された新しいウール100%のカーペットコレクション「 SHE 」のデザインコンセプトや、開発時のストーリーを聞きました。

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— 「 SHE 」は、あなたたちにとっては「 ReForm A New Wave 」に続く、Ege Carpets との二つめのコレクションですね。デザインについて要望されたこと教えてください。

リネア・ブレール:
まず、ハイエンドなホテルやクルーズ船のインテリアに相応しい、ウールのカーペットのコレクションをつくりたいというお話がありました。コンセプトは、私たちに任せてもらえたので、ホテルで過ごす体験と、アートを結びつけるにはどんな方法があるだろう、ということから考え始めました。

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— 特に“女性”というテーマを与えられたわけではなかったのですね。

ローラ・ビルデ:
そうなんです。ウールや織物のリサーチを進める中で、バウハウス(※1)の機能主義からインスピレーションを得ました。そして、1930年ごろの織物産業を学ぶうちに、多くの女性は衣類の縫製などに従事していましたが、アーティスティックな活動をする機会が与えられていなかったことを知りました。バウハウスは初めて女性に門戸を開いたアート系の学校として知られていますが、女子学生たちはテキスタイルのコースにいく選択肢しかなかったそうです。当時の女性には、社会からの大きな制約があり、独立して仕事をすることは難しかったのです。そんな状況に立ち向かい、起業したりアーティストとして作品を残した女性たちがいます。彼女たちの存在はとても感動的であり、「SHE」のコレクションを通じて、当時の女性のストーリーを伝えたいと考えたのです。

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— とても意義深いテーマですね。以前から、バウハウスの時代には興味があったのですか。また、過去のデザイナーで影響を受けた人物がいたら、教えてください。

ローラ・ビルデ:
製造分野でさまざまな変革があり、また、機能をどうデザインしていくか、合理的な新しい考え方が生まれた時代として、1930年前後の時代には関心がありました。時代はちょっと前後しますが、私たちは、ル・コルビュジエ(※2)、チャールズ&レイ・イームズ夫妻(※3)、ミース・ファン・デル・ローエ(※4)、カルロ・スカルパ(※5)などの仕事からインスピレーションを得ています。

リネア・ブレール:
テキスタイルとアートの境界を越えて活躍したアーティスト、ソニア・ドローネー(※6)の作品もとても印象深いですね。当時、テキスタイルデザインは機能的な側面で見られていましたが、彼女はテキスタイルをアートの領域にまで高めました。それは、とても大きな挑戦だったと思います。「 SHE 」は、彼女のアプローチからも大きな影響を受けています。

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— なるほど。「SHE」では、手描きのようなユニークなパターンが多用されていますが、それらはコラージュなどアナログな手法でデザインしたそうですね。どうしてですか?

リネア・ブレール:
感銘を受けた作家へのリスペクトを表現するには、手を使った方法で自分達のデザインをつくり出す必要があると考えたのです。ハサミでカットしたり手で線を描いたりすることで、アーティスティックでオーガニックな、いわば不完全なパターンをつくろうとしたのです。インテリアのデザインをする時にも、不完全さがあると、ちょっと人間らしい魅力が出るというか、落ち着ける感覚になるんですよ。

ローラ・ビルデ:
そうやって私たちが紙の上に描いたコンポジションを、次の段階では、Ege Carpetsのデザイナーと相談しながら、織り機で表現できるようにアレンジしたり、一つのユニットをより大きなプロダクトとしても美しく調和したデザインとなるよう調整していきました。

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— 温かみのある色とクールなグレーなどを組み合わせたカラーも素敵ですね。

ローラ・ビルデ:
このコレクションは、色の違いでまったく異なる印象となるので、パターンにどう色を組み合わせるかはとても重要でした。使用した色は、1930年代のコルビジェのカラーチャートを参照しています。2色を組み合わせた柄はコントラストの強いアーティスティックなものとなり、単色の製品は、より控えめで落ち着いた雰囲気となっています。単色の製品では糸をツイストさせてから織るという Ege Carpets の技術が使われているんですよ。

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— 魅力的なコレクションですね。ここからは、普段のデザインワークについて聞かせてください。お二人はノームアーキテクツ(※7)でインテリアデザインの経験を積んだ後に独立していますが、最近はどんなデザインに取り組んでいるんですか。

ローラ・ビルデ:
特にカテゴリーを限定しているわけではないのですが、今はプロダクトや家具のデザインを手掛けることが多いですね。

— カーペットのデザインと家具のデザインをする際に違いはありますか?

リネア・ブレール:
コンセプトや形を考え始めるアプローチは同じです。ただ、カーペットに求められる機能を考えていく時には、そこで過ごす人のことを深く考え、人の動き方や、その方向なども気にしますね。家具はもうちょっと静的なものですが、カーペットはより大きなスケール感で、建築やインテリアとの関係を考慮しながらデザインを進めていく感覚です。

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— 普段のデザインで大切にしていることを教えてください。

ローラ・ビルデ:
私たちは、いつも機能的なディテールをデザインとうまく融合したいと考えています。理にかなったデザインをして、それが日常生活の役に立ったり、何らかの価値を与えるものにしたいのです。また、物事をできるだけシンプルにとらえ、シンプルにデザインをしたい。そのほうが伝わりやすいと思っているので。

リネア・ブレール:
それから、私たちは、マテリアルにかなりこだわってデザインをしています。「SHE」ではウールやテキスタイルの特徴を考え、例えばガラスであれば、どう光を反射するのか、何が強みなのか、といったことを考えるのです。インテリアの仕事でも、素材の探求を通じてプロジェクトを進めていきます。また、現代はさまざまなデザイントレンドが常に移り変わっていきますが、トレンドに影響され過ぎないよう意識していて、よりパーソナルな感覚で、歴史や自然からインスピレーションを得るようにしています。なぜなら、もっとアイコニックなものをつくりたいから。私たちは、美しく、そして、長く愛されるものをデザインしたいのです。

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— 近年のトレンドについては、どんな印象がありますか?

リネア・ブレール:
現代の人たちはクオリティーへの関心が高く、長く使えるプロダクトを求めているように感じます。未来やサステナビリティについて、みんな考えているし、環境に良くないものはつくらないようになっていくでしょう。サスティナビリティーの面でも、Egeは常に自然に還元することを考えた活動をしていて、素晴らしいパートナーでした。

ローラ・ビルデ:
今はあまりに多くのトレンドがあるので、答えるのは難しいですが、一つ言えるのは、私たちはトレンドよりも、1950年代など、前の世代のデザインから学ぶことに興味があります。淘汰されたものもありますが、数十年を経て、いまだに魅力的なデザインがありますから。私たちの夢は、自分たちが手掛けたデザインが、次世代にとって意味があるものとなることなんです。

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— 本日は、とても興味深いお話をありがとうございました。

文:IDREIT®︎(@idreit_com

PROFILE
Laura Bilde and Linnea Blæhr/ローラ・ビルデ(1990年生まれ)とリネア・ブレール(1992生まれ)による、デンマークのコペンハーゲンを拠点とするデザインデュオ。コンセプチュアルなアプローチから、タイムレスな空間デザインやプロダクトを手掛けている。Norm ArchitectsやHolmegaard、Carl Hansen & Son とのコラボレーションでも知られており、Danish Design Awardほか受賞多数。

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注釈
※1 バウハウス(Bauhaus)
1919年、ドイツのヴァイマルに設立された、美術、建築をはじめ、工芸・写真・デザインに関する総合的な教育を行った学校。モダニズムのルーツであり、結果として現代のインダストリアルデザインの基礎をつくり上げた。

※2 ル・コルビュジエ(Charles-Édouard Jeanneret-Gris)
1887年10月6日スイスで生まれ、フランスをはじめ、世界的に活躍した建築家。モダニズム建築の巨匠といわれている。国内では、上野の国立西洋美術館の基本設計を手掛ける。

※3 イームズ(Ray-Bernice Alexandra Kaiser Eames & Charles Ormond Eames, Jr)
チャールズ・イームズとレイ・イームズ夫妻のデザインユニットの総称。プロダクトデザインをはじめ、建築、映像など、多岐にわたる活動を行い、現代の工業製品デザインに多大な影響を与える作品を残した。

※4 ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)
1886年3月27日、ドイツのアーヘンに生まれ、ドイツとアメリカを中心に、世界的な活躍をした建築家。代表作にファンズワース邸や、イリノイ工科大学の一連の作品がある。また、バルセロナチェアはインダストリアルデザインの名作としても知られる。

※5 カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)
1906年6月2日、イタリアのヴェネツィアで生まれた建築家。素材の探求が深く、時間の移り変わりを繊細に表現した作品は、熱心なファンが多くいる。キャリアの多くをエキシビジョンの会場構成や既存建築の改修が占める。

※6 ソニア・ドローネー(Sonia Delaunay)
1885年11月14日生まれの、パリを拠点に活躍したアーティスト。絵画、テキスタイル、セットデザインなどの分野で幅広く活動。色彩と幾何学的なパターンに特徴がある作品を多く発表し、ルーブル美術館では存命中に回顧展が開かれた。

※7 ノームアーキテクツ(Norm Architects)
2008年にデンマークで設立されたデザインスタジオ。「考え抜かれた永続的なデザインを創造する」という目標を掲げ、インダストリアルデザイン、建築、インテリア、写真、アートディレクションなど、幅広い活動を行う。

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